第4回笹井宏之賞 応募作品 『カラーフィルム』
第4回笹井宏之賞 応募作品
『カラーフィルム』
リーバイス5センチ折って覗かせる人を信じるユーモアが好き
大雨の日に登下校するイエロー未来にわかる愛の色だよ
誰ひとり取り残さないウイルスのやさしさで書く大文字でLOVE
シロクマのあなたは夏、横でいい 冬、縦になったらそれでいい
うれしさの小さな時限爆弾をこよみに仕掛けて日々サバイヴ
街中に新種の香りをばら撒いて金木犀を癒やしたい
木漏れ日をきみと時間がドレスして光るポカリの結露が終わる
シャッターのタイマー押して駆けていく5,4,3,2で愛を知る
◇
テロップで初めて知った正しい歌詞を前から知ってたみたいに歌う
ジーンスの締めつけほどのストレスを抱えて夜の端まで歩く
A4の紙ですぱっと切れた指 同じ原理で日々を抜け出す
チーズタッカルビのタッの部分であの娘が跳ねる それが例えば韓流少女
肝心な人が更新しないからいま上空です、って嘘ついた
唐突にきみが訳したI LOVE YOU 同じ太陽に照らされている
酔って花の降る光の階段で一瞬の運と永遠の縁
花売りに就職希望のビリオネア 過剰な生花が街に降る
生乾き自意識は毒 でも僕は死ぬまでちょっと湿っていたい
◇
母親の頭に降り始めた雪をカーネーションでやさしくとかす
返り血をなんともなしに浴びながらゴブラン織りのじゅうたんの上
しあわせは創造の敵、って少し嘘 もう一軒いく?AND ALIVE
青々とうるおいレイディ袖のないきみに慣れないずっと触れたい
むきだしのエモでキャンディ噛み砕いて アレクサ、一度きりの夏だよ
いつまでも針が読めない花時計 そんな気に君はさせてくれる
軽率に誘えるあいつとサイゼリヤ 明け方誰かが天使になっていく
◇
バーチャル渋谷ストリート ネットでも穴、空けられますか?耳たぶに
冷房の効いた部屋で着る肉厚のコットンパーカ 安心します
昼間見た満開の桜あの森の奥で夜中もずっと咲いてる
やさしくし・愛し放題のこの街であなたもちゃんと取ってよ採算
I didn't find you, you found me. 夏、きみと鰻を食べに行く
◇
銭湯のマッサージ機で宙、入れ替わる 宇宙飛行士だったころの記憶
誰も未来以外の呪文を唱えられない 1センチのりんごの樹の下で
憂鬱はダブル・スウィートでもてなして 濃くなるきみの光を見てる
そんなこと考えてるよりやることがたくさんあるでしょ、って妖精
たとえば友達がオーダーする料理 この世界そうではない世界
帰り道ロング缶持って笑ってよ おきまりの「ファンサービス」と一緒に
横断歩道 手つなぎ歩く超新星 一秒ごとにちかづく未来
街中で気軽に産まれる運命をフラミンゴに変えて野生に放つ
大雪の日に先陣を切る僕の足音を踏むきみの足跡
静止画のように漂うタンカーの下で迷子のジャンボジェット機
くし切りのレモンが代わりに泣いてくれて新着通知は読まずに消し
蜜蜂の羽音を聞くと甘い蜜こしらえる花ぼくらに似てる
地下鉄できみが寝たとき眠らない 僕が寝たとききみ寝ないから
アネモネが赤い花だと明かすまであなたが明日を愛せる日まで
包丁を持つと聞こえる母の声 大丈夫ありがとう猫が鳴く
花に色があるのと同じ理由で人はやさしい ずるい かわいい
◇
もう未来なんて現地調達 指のハートがプラチナになる
台風前夜 あの水族館の鮫たちも眠れず青い光を揺蕩う
劇場が光を思い出す前に流れる涙の天然水
オペラ座の赤一杯に世界が腰掛けて待っている きみを待ち焦がれている
花のワンピース着たり、可愛いひとになったり
二週間くらい前から、一日一枚写真を撮ってインスタグラムに投稿するようにしている。綺麗なもの、面白いもの、変なもの。自分がちょっとでもひっかかったものなら、どんな写真でも投稿してOK。思い出を残したいとか、誰かに見てもらいたいとか、そういった目的はない。ただ、社会人として年を重ねるごとに感性に澱が溜まっていくような感覚を少しでも取り払いたくて始めた。
「後で質問をしてもらうので、よく聞いておくように。」先生にそう言われると、いつもより少し授業を聞く姿勢が変わった経験がないだろうか。日に一枚写真を撮ることを義務づける行為もこれに似ていて、要はアウトプットを意識することでインプットの質を高めようとする試みだ。面白いものを見つけよう、見つけなければならないと毎日考えながら生活することで、自然と面白いものが目に入ってくる。今まで見過ごしてきたものが見えてくる。そういう効果を期待して今日もせっせとインスタグラムに写真をアップしている。
◇
今週末、結婚に向けた両家の顔合わせがようやく開催できそうだ。家族全員がワクチン2回接種を終え、新規感染者も一気に収束に向かっている。本当にここしかない!というタイミングだ。そして、このまま全てがうまくいけば年末までに入籍まで進めるかもしれない。いよいよである。
結婚って、どんな感じなんだろう。気持ちの面で何が変わるんだろう。ほぼ丸5年遠距離恋愛だったこともあり、全然想像ができない。婚姻届を出したとき、相手か自分の名字が変わったとき。一緒に暮らし始めたとき、子どもが生まれたとき。そのとき自分は何を思うんだろう。知りたい。確かめたい。